デンキ屋の独語(ひとりがたり)

本業電気屋。趣味や関心のある事についてのひとり語り。あくまで個人の想いであり批評や批判ではありません。

実際トヨタのサブスクはあり?なし?「KINTO」を語る

今回は趣味の話ではなく先日利用を開始した「KINTO」について、実際に検討したメリット、デメリット、そして果たしてありなのかどうかという感想等を語りたいと思う。

「KINTO」とはなんぞや?

話題にはなっているが今ひとつ何なのかわかりにくいトヨタのサブスク「KINTO」。
サブスクリプション、つまり毎月定額制で車を使用する権利を取得するというスタイルである。
好きな車種(勿論トヨタ製の指定されたものに限るが)、オプション等を設定し、決まった期間(3年、5年、7年のうちから選択)に応じた月々定額を支払ったう事でその間の車検等の整備代、税金、車両保険等の維持費も込みで利用できるというものだ。

この維持費も込み、というのが意外に大きい。
車というものは購入費用以外にも様々な維持費がかかる。
重量税等の税金は勿論、特に自分でメンテしない場合だと車検やそれ以外にも定期的な点検、タイヤの交換等の部品代というか工賃に意外と馬鹿にならない費用がかかるのだ。それに後で触れるが、保険料は利用者の考え方にもよるがかなり金額に幅がある。
そこを重要視する人にとっては非常に大きい比重を占めるのだ。
車は購入する物、という常識を覆すある意味画期的なシステムであり、最近流行りの新しい生活スタイルとも言える。

ただ、一応サブスクと謳ってはいるものの、事実上はマイカーリースであるのは明らかだ。

一度決めた車を自由に交換できるわけでもないし、途中解約は基本的に出来ない(一応解約は出来るが相応の違約金を払う必要がある)。
月額料金は車のグレードによって幅はあるものの、音楽やその他の定額サービスに比べるとそうそう気楽に利用できる金額ではない。

例えば私の場合だとヴォクシーハイブリッドの煌Ⅲでサイドバイザーとカーナビ付で5年間使用すると月々61,050円(税込み)になる。
ん?意外と高いのでは?と思った人も多いのではないだろうか。
値引き等の条件でも変わるのでなんとも言えないが、同様の車で頭金無しでローンを組んでも大体同じ様なものだ。
実際、今の主流である残価設定型で5年のローンを見積もりしてもらったがこれよりは安かったので、決して安いという印象ではないだろう。

車の購入費用のみでそれ以外の維持費も込みになるという点は大きいが、購入すれば車という資産は残る。
ここをどう評価するのかで損か得か意見が分かれるはずである。
結局、維持費を含めた場合の条件が合致するかどうかが鍵となるのだ。

私の場合は仕事で車を使う事も多いので個人事業主としての経費として考えた場合のメリットがある。
車検代等の定期的な整備代は勿論、想定外の修理費の心配が無く月々の経費が一定である事は大きい。

もうひとつ私が重要視したのは任意保険料だ。
正直、これは人によってかなり差の出る経費だ。考え難いが意に介さない人にとっては全く必要の無い経費ではある。
ただ、万一事故を起こした時のことを考えれば充分な保証があったほうが良いと私は考えている。
対人保険は無制限である事が必須であるし、車両の修理費用を考えればそれほど手を抜ける部分ではないが、当然その分保険料は割高となる。

本来なら、私は長年無事故で保険の等級が上がっているので保険料はまだ安い方だ。更に年齢制限を付ければ保険料はかなり節約できるはずなのだ。
ただ残念ながら、我が家の場合は息子(20代)も運転する事が多いのでせっかくのメリットを得られず、その辺りも決めるポイントになったのである。

パンフでは見えづらい「KINTO」のメリットとデメリット

パンフでは勿論良い事しか書いていないのだが、よく調べてみると契約内容には結構細かい条件が設定されている。

例えば先の保険に関しては内容についてはほぼ上限は無いのだが、実は5万円の免責が設定されている。つまり、5万円は修理代として負担する必要はあるので注意が必要だ。
等級が下がる心配はないので何度ぶつけようとも保険で修理できるのは良いが、その都度5万円までの負担は大きい。

走行距離についても制限があり、月平均1,500km以内に抑えなければならない。
普段使いには全く問題ないレベルではあるものの、仕事で毎日使おうと思っている人には厳しい場合もあるだろう。何より距離を気にしながら使うのもストレスが貯まるものだ。

意外に盲点なのはペットを乗せることが禁止されている事だ。
ケージに入れられる様な小動物程度なら良いらしいが、キズ等よりもむしろ匂いが残るのが問題らしい。

キズや凹み等は返却の際に完全に直すことが求められている。
ある程度の細かい擦り傷は大丈夫だが、一定の大きさ以上の傷は修理して返却する事となっているのだ。

大きなものは保険を使って直すとしても、先程触れた通り免責分の最低5万円の負担は覚悟しておく必要がある。

勿論勝手な改造は論外だが、例えば車内に何かを取付けるために小さい穴を空けることすら内装交換の対象となる。

私の場合問題になったのはカーオーディオだ。
私はそれほどマニアというわけではないがノーマルのスピーカーの音質に不満があったので今回も前の車に取り付けていたスピーカーを載せ替えることにしていた。
ところが付属のツィーターをドアに付けると返却の際にドアの内張りを丸々交換しなければならないということで断念せざるをえなくなったのである。
それを考えると、取り外しができるもの以外はほぼノーマルで使用することになるのだ。

総合して考えると、ある程度車を所持していた実績のある人、車の好きな人にはあまりメリットが無い事がわかるだろう。

一度契約してしまうと、実際に乗ってみてどうしても気に入らない場合でも期間中は乗り続けなければならないし、貼り付けたり加工の必要な装飾は不可、ペットも駄目、下手にキズも付けられないのでは車を使った趣味はどうしても躊躇することになる。
当然、自分なりのカスタムもできないようでは車への愛着は湧きにくいということになる。

元々車の好きな人ならメンテ費用も自分である程度節約できるし、更に長年無事故で保険の等級が高い年配の利用者にしてみれば維持費に関するアドバンテージは殆どないと言える。まあそのような人ならそもそもリースはしないと思うので最初からターゲットにはしていないのだろう。

ではどういう人ならメリットがあるのか、という事になるのだが、基本的に車のメンテにお金のかかると思われる人で且つ移動の手段としての割り切った考え方のできる人、ということになる。

メカには自信のない人やそもそも車自体に興味のない人はメンテはディーラー任せにするであろうし、車はノーマルで充分だと割り切れるであろう。

他にメンテ費用がかかる人というのは初心者で運転に自信の無い人、つまりよくぶつけたり擦ったりといった事の多い人のことだ。

これについては5年も乗っていれば慣れた人でも多少擦ったりする様な事は大概あるものなので技術的に未熟とばかりは言い切れないが、そう考えれば返却の際にはほぼ間違い無く免責分の出費は覚悟しておく必要はあるだろう。
ただ逆にそこを割り切ってしまえばそれ以上の負担は考えなくても良いので、そういったリスクが少ないと思えば実に車初心者向けだと言えるのである。

私の場合、これまでも大体5年程度で乗り換えていたこと、メンテ費用は経費としてある程度処理することもあり敢えてディーラー任せであること、息子が運転する事もあり保険料が安くならないこと、基本的にはノーマル状態で使っていることやペットもいないのでそれ程車を痛める心配がないこと、何より最終的には修理代を負担することは織り込み済みである事等の条件がたまたま揃っていたので今回利用することにしたわけだ。

今の所、実際使用していて自分の車、という感覚は購入してローンを払っている時と大して変わらない。
ただ、未だどうしても契約が切れる時の事をあれこれ考えてしまっている時があるのは確かだ。

私の場合5年、という縛りがどうしても引っ掛かりを感じてしまうのである。

確かに大体5年で買い替えている事を考えれば状況は変わらないのだが、それは選択肢がある上での決断であり、返却しなければいけない、というのはやはり気分的にはスッキリしない。

今回はディーラーの勧めもあり、ある程度情報のやり取りがあったのでいつもの購入の流れと変わらなかったが、本来申込みはネットでの発注である。何も話を聞かずにワンクリックで5年間縛られると思うとそう簡単には決断しきれなかったであろう。

せめて、もう少し選択肢というか、精神的なゆとりのある契約にはできなかったのであろうか?とは思う。

契約直後に解約したり車を変更するのは無理だとしても、気に入った車であれば期間を延長出来る、またはそのまま中古車として買取が出来るといった選択肢が用意されていれば、それだけでも精神的な負担は大分軽くなるのではないかと思うのだ。

恐らくその様な事ができるとしても実際にそうする人は極めて少ないであろうが、いざとなればそう出来る、という安心感が重要なのだ。それの有る無しで利用するハードルは随分下がるはずである。

後、個人的に気になるのが今後の契約条件の変更だ。

先程のメリットの話でわかるように、特に有利になるのは修理をする機会の多い人である。
つまり、若年層は勿論、普段から運転が荒く事故の多い人、保険の等級が低く保険料が高くついている人にとっても有利と言う事だ。

極端な話、どれだけボコボコになろうが5年間我慢して乗って最後に保険で修理するつもりなら負担は5万円で済む、という意地の悪い考え方をする人も少なからずいるはずである。

そんな人ばかりが利用することになれば当然この価格設定も見直す必要に迫られ、更に条件が厳しくなり利用し難いものになるのではないだろうか。

自分の車として大事に乗っていた人からすれば、そういったユーザーの煽りをくってはたまらない、と思うのだ。

結論として、「KINTO」がアリか無しか、という話になると購入と比べて得である、という決定的な魅力にはやや欠ける、というのが正直な所だ。

私の場合たまたま条件が整っていたから契約したが、条件的に合致する人は結構限定されてしまうのではないかと思うのだ。

更に言えばリースを選択するにしても「KINTO」がベストとは限らない。
実際、リース料金は似たりよったりな感じはするし、条件については他のカーリースの方が余程柔軟な契約内容だ。
実は先に触れた様な契約延長や買取等の選択肢は既に採用されている。

唯一優れていると思えるのは任意保険も込みという部分だけだ。もっとも、この部分の優位性はかなり大きく、この一点だけでも「KINTO」を選ぶ人はいるかも知れない。
但し、その点は先に触れたように初心者や運転の荒いリスクの大きい顧客が集まることにもなりかねず、そこは諸刃の剣だとも言えるのだ。

現状、丁寧に乗っている利用者には何の特典も無いので、長年車を所有してきた層を取り込むために長期的に利用するメリットや優良ドライバーに対する魅力の提起はもっと必要だと思う。
例えば最近「KINTO」利用者にはレンタカーの割引サービスが始まっていたが、そういう色々な車に乗りやすい特典は是非もっと充実させて欲しい。

これまで敷居の高かった車の所有が簡単になることは確かなので、これまで二の足を踏んでいた若年層という客層を開拓できるという意味では優れたスタイルではある。

また、まだ少し先の話になるがEVや水素エンジン等の将来性がまだ未知数である車がラインナップされれば、お試しとしての利用は有効ではないかと思う。

今後私の契約が満了する前にもっと条件が改善されている事を期待したい。