不遇のヒーロー「ワンダーウーマン」
このところのコロナ渦で映画の封切りが中止や遅延する事態となって、結果「鬼滅の刃」がひとり勝ちとなっていたが、ようやく洋画が封切られた。しかもあの「ワンダーウーマン」の続編である。
だが残念ながら、やはりこの時期の条件はあまりに悪かったと言わざるを得ない。
度重なる封切りの延期、しかもようやく封切られたと思ったら少し仕事が忙しくて観れない間にもうレイトショーで一日一回の上映となっている有様だ。
もしかすると今回はそんなに出来が悪かったのか?と少し不安に思いながらようやく観る事ができた。
いやとんでもない。
前作の完成度の高さも凄かったが、それに負けず劣らず素晴らしい出来だった。
何故これ程面白い映画がこんなにも話題にならないのか不思議なくらいだ。
確かに「ワンダーウーマン」というキャラクターは日本でのヒーローとしての知名度としては低い。
私の世代ならば子供のころTVシリーズとして放送されていたスーパーマンやバットマンと並ぶ超有名なキャラの1人なのだが、それも昔の話だ。
まあよく知っている我々の世代にしても、昔のTVシリーズでのスーパーマンやバットマンはどちらかと言えば格好良いというよりギャグ路線のいかにもアメリカ的なイメージが強かった。
なので当然彼らと並ぶヒーローであるワンダーウーマンも同様にチープでアメリカンな印象であり、現代のリアル路線とは繋がらないのである。
バットマンやスーパーマンは過去にリアル路線での映画化が当たった事もあり、大分イメージは改善されているがワンダーウーマンに関してはやはりあの星条旗のホットパンツを履いた彼女のイメージが強く残っているのだ。
そんな彼女が「バットマンVSスーパーマン」に突然登場した時にはあまりの脈絡の無さに驚いた。
いや勿論、伏線はあったし私にとっては嬉しい驚きではあったがアメコミや昔を知らない人にはこの人誰?といった感じだったのではないだろうか。
だがガル・ガドット演じるどこか東洋的な顔立ちのワンダーウーマンには昔のネアカで健康的なおねえさんの影は微塵もなく、芯の強そうな姉御の雰囲気を漂わせて実に美しいヒーロー像になっていたのだ。
「ジャスティス・リーグ」と「アベンジャーズ」の評価
少し話はそれるが、DCコミックス原作の映画「マン・オブ・スティール」を始めとするジャスティスリーグシリーズはマーベルのアベンジャーズシリーズに比べると大分評価が低い様に思う。
それにはいくつか理由はあるが、第一に全体のカラーがセピア色のイメージで、マーベルのアベンジャーズシリーズに比べてやや暗く地味な感じがするのだ。
そしてどうしても二番煎じのイメージがあるのが痛い。
本場アメリカではヒーローの元祖とも言えるスーパーマンやバットマンを始めとするDCコミックスのヒーロー達や、彼らが一堂に会する夢の展開「ジャスティス・リーグ」はアメコミでは先駆者であったはずだが、DCに感化される形で後から登場したはずのマーベルヒーロー達の方が先にアベンジャーズシリーズとして映画化される事で、まるでジャスティス・リーグの方がパクったかのような印象となってしまったのである。
ましてや、先に映画化したとはいえ、スーパーマンやバットマン等昔のTVシリーズが有名過ぎるヒーロー達は日本人にはどうしても古臭いイメージがつきまとう。
むしろ、日本ではほぼ無名に近かった「アイアンマン」や「キャプテンアメリカ」「マイティソー」等のヒーローの方が新鮮に感じたのだ。
メディアでの扱いもアベンジャーズに比べるとジャスティス・リーグの扱いは低く、宣伝も充分とは言えなかった。
では映画自体の出来はどうか、と言われれば、私自身の好みということを抜きにしても決して負けてはいないと思う。万人向けのリアルだが明るいヒーローアクションのスタンスを崩さなかったアベンジャーズシリーズに対し、ハードでシリアス志向なバットマンのダークナイトシリーズやスーパーマンの「マン・オブ・スティール」はどちらかと言えば大人向け、玄人向けな作品である。
まあ観客を選ぶという意味では確かに商業的には不利だとは思うが、クオリティ自体はむしろこちらの方が高かったのではないだろうか。
評価されにくい「ワンダーウーマン」の質の高さ
日本では元々不利な条件の中登場したのが「ワンダーウーマン」だ。
知名度やイメージの事もあり、決して前評判が高いとはいえなかったが実際観てみると単体の映画としての完成度はジャスティス・リーグシリーズ内でも一二を争う出来だったのではないだろうか。
特に脚本は全くと言ってよいほど隙が無く設定や世界観等、他の作品に感じるようなツッコミどころも何も感じない仕上がりだったのだ。
知的でクールな美しさを持ち、それでいながら激しい肉弾戦をこなす。しかも単に無敵の力だけでは無く身軽さと華麗な技も見事なワンダーウーマン像は、DCのみならずマーベルヒーロー達にも無い光を放っていた。
過去のTVシリーズとも違う、原作を知っていようがいまいが関係なく、純粋にヒーロー物として最高に面白い作品だった。
この作品もなぜ日本ではそれ程評価されていないのかというもどかしさすら感じるのだ。
彼女が不幸だったのは映画「ジャスティス・リーグ」での立ち位置が微妙だったこともあると思う。
ワンダーウーマンそのものは知的で沈着冷静、その強さもヒーローとして充分主役を担えるものであったが、ジャスティス・リーグの物語の中ではバットマンが知的な部分を、そして強さの部分をスーパーマンが担ってしまったのでその存在感を発揮出来ずに終わってしまった感があるのだ。
個性がはっきりとしているフラッシュやアクアマン、サイボーグなどはともかく、肝心のバットマンはヒーローとしては弱すぎた為に知的な部分は彼が担うしかなかった。
代わりに彼女は力の部分を序盤から中盤まで担う形になるのだが、彼らを頑張って引っ張っていた彼女は最後にスーパーマンに美味しいところを全て持っていかれてしまう。
ある意味完璧でバランスの取れたヒーローであるワンダーウーマンがあくまでもただの人間であるバットマンとあまりにチート過ぎるスーパーマンの間に立って一番割をくった形になってしまったのである。
ヒーローとしては日本ではあまり評価されていないのが非常に残念なワンダーウーマンだが、単体の映画としての出来は素晴らしかった。
そして誕生編としての前作に引き続きの今作。
物語についてはネタバレになるのであまり多くは語らないが、前作の続編ということもありストーリーは前作を観ていないとその根幹部分、主人公であるワンダーウーマンの行動理由が解りにくい。
何故彼女はそこまで悩み、悲壮な決断をするのかというこの映画の深みが変わってくるのだ。
それでも、映画自体は充分に楽しめる内容で、序盤のワンダーウーマンが子供の頃のエピソードから、強盗達を退治する街中でのアクションシーン、そして本筋のエピソードに繋がるスムーズさと、それらが無駄なく布石となっている。
「バットマンVSスーパーマン」で登場する前の、まだ表立ってヒーローとして活躍していない頃の物語のためそれ程派手な活躍ではないが、昔のアメコミヒーローらしい街の英雄的な活躍と、少し間抜けで完全な悪者とは言い切れない強盗達に殺伐とした時代ではない事を感じさせてホッとさせられる。
アクション自体も相手を殴ったり蹴ったりといったゴツゴツとしたものではなく、アイテムであるヘスティアの縄を自在に操る軽快なもので目まぐるしく複数の相手をしながら人々を救っていくのだ。
世界を救うより先に、身近にいる子供達の危機を救う事を優先するワンダーウーマンの姿は実に美しく格好良い。そして救った子供達に口元に指を当てながら「内緒にしてね」とささやく彼女の笑顔が実にキュートだ。
物語の本筋はどんな願いもひとつだけ叶えてくれる不思議な石が巻き起こす混乱という、実に荒唐無稽な冗談の様な話だ。一歩間違えばギャグにしかならないような話であるはずなのに、様々な伏線と願いの切実さが丁寧に描かれる事で何故か不思議な説得力がある。
人の欲望とその代償の大きさを描きながら、結末はまあ少し綺麗事過ぎるような気がするが、人間も捨てたもんじゃないと思わせてくれるのである。
今回、少しだけ不満を感じたのがCMでも流れた今回の特殊アイテムのゴールドアーマーの扱い方だ。
いかにも重要アイテムであるような前振りと美しいデザイン、背中の翼の鎧としての使い方も大変良く出来ていたとは思うが、その割にはあまり役に立っているとは言えず、これはこのエピソードに本当に必要だったのか?という疑問は拭えなかったのだ。
まあアイテムとしては役に立たなかったものの、実はこの伏線のためのアイテムだったのではないか?という私と同世代の人達には嬉しいサプライズはあったのでこれは良しとしよう。
この作品が素晴らしいから皆もっと観に行こう!などと押し付けがましいことを言うのはどうかと思う。
ただ、単なる流行りやマスコミのあおりで観るだけでなく、出来が良いと思った作品は皆がもっと発信して、もっと映画の面白さが正当に評価されて欲しいと願うのである。